難聴がある場合の
配慮と支援

もしお子さんに難聴があると分かっても、お子さんの負担を軽くしてあげる手立てがたくさんあります。
日常的に、周りの人々がお子さんの聞こえにくさを理解して、適切な配慮をしてあげることができます。

また、補聴器などの補聴機器を活用して、聞こえやすくする方法があります。
さらに、専門の学校に通って、特別な教育的支援を受けることができますし、
専門のスタッフがいる病院でハビリテーションを受けることもできます。

日常の配慮

聞こえやすくする配慮

 お子さんの聴力の程度に応じて、補聴器や人工内耳を活用する方法があります。お子さんの気持ちに配慮しながら、試してみるとよいでしょう。また会話において、周りの人が少し近づいて話しかけることや、周りが静かになるよう配慮することも、聞こえやすくするために効果的です。教室内では、座席の配慮も重要になります。お子さんの聞こえにくさの程度や特徴は、一人一人違いますので、そのお子さんの聞こえにくさに合った配慮を工夫することが大切になります。

分かりやすくする配慮

 視覚的な手がかりを活用することがポイントです。会話の中では、お子さんの目を見て話しかけ、こちらの口の動きや表情を見せながら話しかけることが効果的です。また、固有名詞など、難しいことばは書いて見せることも効果的です。授業の中では、板書や図版、実物などの活用が効果的です。手話が理解できる場合は手話を活用することもよいでしょう。テレビを視聴する場面では、字幕放送の活用が考えられます。最近は字幕付きの番組が増えていますので、積極的に活用しましょう。さらに、授業や講演会などで、要約筆記やノートテイク、手話通訳などの取り組みがされるようになってきています。

周りの友達とつながりやすくする配慮

 聞こえやすくする配慮や分かりやすくする配慮をしても、難聴のあるお子さんが人々の中で感じている困難さがあります。皆の遊びや会話の中に入りにくいとか、分からなかったことを尋ねにくいなど、周りの人々と関係がとりにくいという困難さです。
 この背景としては、「聞こえにくさ」について周りの子どもたちの理解不足もあります。そこで、周りの子どもたちへの理解を促すために、先生から説明していただく方法などがあります。

 また、本人の人とかかわる体験不足も考えられます。お子さんの人とかかわる体験を増やす意味で、通級教室での小グループ指導や親の会の行事を企画する方法、さらに地域の子ども会やスポーツクラブなど、様々な集団に参加してみるのもよいでしょう。

日常会話の一つ一つが大切

 お子さんとの日常の会話の一つ一つを大切に会話することです。どんな些細な会話でも、お子さんにとってよい会話体験となるよう心がけて会話をしてみましょう。以下に紹介するような配慮をして会話すると、お子さんが、分かった、分かってもらえたと満足感を得やすくなります。そうなると、もっと知りたい、もっと分かってほしいと意欲的になり、会話をよりしやすくなります。

分かりやすい会話の仕方を

 話しかける時には、お子さんの目を見ながら話しかけ、声の大きさや話す速さ、使うことばや言い方などをお子さんの反応を見ながら加減して話しましょう。それでも理解できない場合は、繰り返して話したり、言い方を変えたり、紙に書いたり、理解できるように工夫してみましょう。

 話を聞く時には、お子さんが言いたいことをよく聞いて、意図を読み取って、分かったことをお子さんに伝え返してみましょう。「あなたはこう言いたいのね」という気持ちで。このようにするとお子さんは分かってもらえたと安心し、お話がしやすくなります

補聴器や人工内耳

補聴器

 補聴器は、その人の聞こえにくさに合わせて音を増幅して、聞こえやすくする機械です。増幅のしくみは、昔のようなアナログ増幅ではなく、デジタル処理によって増幅しています。ひずみや雑音が少ないきれいな音で、より細かな調整が可能になっています。昔の補聴器のように「音がうるさい」ということはありません。軽度難聴の人もつけられる静かな補聴器が開発されています。

 補聴器の効果は、音が大きく聞こえやすくなるだけでなく、ことばが聞き取りやすくなります。これから、ことばや知識を学習する子どもにとって、とても大切な機械といえます
 しかし、すぐに効果が出るわけではありません。調整や慣れが必要です。いつでも、どのような場面でも、効果があるわけではありません。状況によって、その効果には限界があります。だれでも効果があるわけではありません。聴力が厳しい場合、効果が期待できない場合もあります。

人工内耳

 人工内耳は、補聴器では効果が期待できないほど高度な難聴のある人に対して、会話音が聞き取れるようにするために開発された機械です。補聴器のように音を増幅するのではなく、音をデジタル処理して聴神経が感じ取れる電気信号に変換します。その信号を、内耳の蝸牛管に埋め込んだ電極を通して聴神経に伝え、脳に音として認識させるしくみです。内耳の役割である、音を電気信号に変換する働きを代わりにする機械という意味で、人工内耳といわれます。

 人工内耳ができるまでは、補聴器を使っても人の声を感じ取ることがやっとだった人が、人の会話を聞いて理解できるようになったのですから、画期的な機械と言えます。
 人工内耳を使うためには、電気信号を伝えるための電極やコイルを、蝸牛管や皮膚の下に埋め込む手術が必要です。また、補聴器と同じように調整作業が必要です。聞こえ方は、正常の聴力の人と同じになるわけではなく、軽度の難聴の人と同じ程度の聞こえ方になります。それでも補聴器を使っても会話が聞き取れない厳しい聴力の状態から比べると大変大きな改善になります。

専門の教育機関

 現在日本には、難聴のある子どものために、三つの教育制度があります。その子の困難さの程度や教育的ニーズに応じて選択することができます。保護者の方が、学校や教育委員会と相談しながらお子さんに合った教育の場を選択することになります。

 実際には、特別支援学校や小・中学校にある教育相談のしくみを利用したり、教育委員会が設けている教育相談のしくみを利用したりして相談し、専門のスタッフの助言を参考に考えていきます。また、その際に医療機関からの診断や助言も参考にして考えていきます。

難聴のある子どものための教育制度

聴覚障がい対象の特別支援学校(聾学校)
指導領域 教科・道徳・特別活動・自立活動を行う。
指導形態 少人数の学級で障がいに配慮して行う。1学級は、6人以内。平均3名。
重複障がいのある児童生徒のために、重複学級を設置することができる。
指導時間 全体の指導時間は、小・中学校と同じ。
対象児 両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもののうち、補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能又は著しく困難な程度のもの
学籍 学籍は、特別支援学校の所属学級におく。
小・中学校の難聴特別支援学級+通常の学級(交流及び共同学習)
指導領域 教科・道徳・特別活動・自立活動を行う。
教科・道徳・特別活動の一部を通常学級との交流及び共同学習として学習することができる。
指導形態 少人数の学級で障がいに配慮して行う。1学級は、8人以内。平均3名。
通常の学級は、40名以内、平均35名(小学校)。
指導時間 全体の指導時間の中で、特別支援学級における指導が中心となるように行う。
対象児 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの
学籍 学籍は、小・中学校の特別支援学級におく。
小・中学校の通常の学級+通級指導教室
指導領域 通常の学級において、教科・道徳・特別活動を学習し、通級指導教室では、自立活動を行い、一部教科の補充指導を行う場合もある。
指導形態 通常の学級は、40名以内、平均35名。
通級指導教室は、原則個人指導で、小グループ指導を行う場合もある。
指導時間 通級指導教室における指導時間は、週1~8時間。
多くの場合週2時間程度。
通常の学級の教育課程に替えて、あるいは加えて行う。
対象児 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの
学籍 学籍は、小・中学校の通常の学級におく。

病院におけるハビリテーション

〇(リ)ハビリテーションに関わる専門家「言語聴覚士」

 言語聴覚士(=Speech Therapist以下、ST)は(リ)ハビリテーションの仕事をする専門家で、医療・保健・福祉・教育の場面で活躍しています。医療機関では医師の指示のもと(リ)ハビリテーションを行っています。
 STの業務内容を詳しく知りたい方は、日本言語聴覚士協会のHPをご覧下さい。
 [URL]https://www.jaslht.or.jp/
          このHPを見る⇨ ここをクリック

 このページでは、耳鼻咽喉科で子どものきこえとことばに関わるSTが行っている、言語発達支援とその他の業務について紹介します。

言語発達支援について

 言語発達支援の形態は様々ですが、大きく分けて個別訓練と集団訓練があります。
 コミュニケーション手段としては、音声言語、手話、ジェスチャー、サインなど多様に
使用し、お子さんがやり取りしやすい方法を選びます。

・個別訓練 … STとお子さんとの1対1の訓練です。
 日常生活でのコミュニケーションが円滑になることを目標としています。訓練内容としては、ことばの成長を促すための練習(語彙拡大)、コミュニケーションの力をつける練習、ことばを聞き取る力をつける練習、国語の文法表現の力をつける練習、正しい発音で話すための練習などを行います。

・集団訓練 … 同学年ないし発達段階が同程度のお子さん数名で小集団を作って行います。
 小集団でのやり取りを積み重ねることで、幼稚園や小学校などの集団生活でのコミュニケーションが円滑になることを目標としています。訓練内容としては、コミュニケーションの力をつける練習、ことばを聞き取る力をつける練習を行います。

 その他、保護者に対してはお子さんが行っている訓練の意義・目的の説明、お子さんの発達状態や家庭での具体的な関わりについての情報提供、教育・療育機関に関する相談等も行っています。
 ちなみに医療機関で言語発達支援をする場合は医師の指示のもと開始となるため、まず受診が必要です。事前に問い合わせをすると、受入れ対象や受診の流れが分かると思います。(言語発達支援を行っている病院が分からない場合は各自治体の福祉課、保健センター、発達支援センターなどに問い合わせをするとSTが勤務している施設を紹介してくれます。)

経済的な支援

 お子さんに難聴がある場合に、国や自治体、公共機関から経済的な支援を受けられる場合があります。
 お子さんが身体障害者手帳(以下、手帳)を取得できる場合、障害者総合支援法によって、補聴器を購入するための補装具費の支給を受けることができます。
 また、手帳の等級や障がいの程度によって「特別児童扶養手当」や「障害児福祉手当」の手当が支給される場合があります。さらに、所得税や住民税、自動車税・軽自動車税及び自動車取得税が軽減される場合があります。

 この他、JRの運賃や航空旅客運賃、有料道路通行料金の割引を受けられる場合があります。自治体が、地下鉄・市電・バス・タクシーなどの公共交通料金の一部または全額の助成をしている場合があります。マル優や特別マル優の利子が非課税となったり、NHKの受信料が半額免除になったりする場合もあります。

 お子さんが、身体障害者手帳を取得できない程度の軽度難聴の場合にも、自治体から補聴器購入の助成を受けられる場合があります。
 札幌市の場合は、両耳難聴の場合は2台分の助成が受けられ、片耳難聴・片耳正常の場合にも、1台分の助成が受けられます。また、デジタルワイヤレス式の補聴援助システムについても助成が受けられるようになりました。
 詳しくは、各自治体のホームページで探すか、福祉の窓口でお問い合わせください。